ホームメンズエステ改正風営法から約1年——メンズエステ業界に起きた地殻変動と、これからの展望

改正風営法から約1年——メンズエステ業界に起きた地殻変動と、これからの展望

「10年に一度」の法改正が業界を直撃

2025年6月28日、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)の改正が施行された。2015年以来10年ぶりの大改正だ。ホストクラブをめぐる女性被害の深刻化という社会問題を直接の契機とした今回の改正は、色恋営業や売掛金、スカウトバックなどへの規制強化が主眼とされた。しかしその波紋は、性的サービスを提供するいわゆる「裏メンエス」の世界にまで広く及ぶことになった。

施行から約1年が経過した今、業界はどのように変化したのか。摘発の現状、セラピストの動向、経営者の選択、そして台頭する新業態まで——複数の視点からその実態を追う。

罰則の大幅引き上げ——「一発退場」リスクが現実に

今回の改正で最も業界に衝撃を与えたのが、罰則の大幅強化だ。禁止区域営業や無許可営業に対する罰則は、個人の場合「2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金」から「5年以下の拘禁刑または1,000万円以下の罰金」へと引き上げられた。さらに法人への両罰規定は200万円以下から最大3億円以下へと、実に150倍もの引き上げとなった。

この数字が業界に与えた心理的インパクトは大きかった。「最大3億円もの罰金となると、過激店のオーナーはみんな廃業するだろう」という声が業界内で広がり、改正施行直後から廃業や転換に動く動きが相次いだ。

また改正により、スカウト等から女性従業員の紹介を受けた場合の紹介料支払い(スカウトバック)も全面禁止となった。違反した場合は6か月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科される。これはメンズエステ特有の採用慣行を直撃する規定であり、スカウト経由の採用に依存していた店舗には打撃となった。

摘発ラッシュ——全国で逮捕者が続出

法改正の施行は、取り締まりの本格化とセットで動き出した。改正直後の2025年6月末には大分市で経営者ら4人が逮捕され、7月10日には静岡市でもメンズエステ経営者2人が風営法違反の疑いで逮捕された。以降も全国各地で摘発事例が続き、法改正が絵に描いた餅ではないことを業界に知らしめた。

2026年5月には新潟市東区で、住宅地のマンションで性的サービスを提供していた男性2人が風営法違反(禁止区域営業)で再逮捕される事案が発生した。同一グループによる複数拠点での違法営業が明らかになったこのケースは、摘発が継続的かつ組織的に行われていることを示している。青森市では第三新興街と呼ばれる歴史ある歓楽街エリアでも同様の摘発があり、地方を含む全国規模で取り締まりが進んでいる実態が浮き彫りになっている。

警察の摘発手順はパターン化されており、口コミサイトや掲示板の書き込みをもとに内偵を開始し、私服の捜査員が一般客を装って来店・確認した後、複数のセラピストへの複数回調査を経て摘発に踏み切るという流れが定着している。改正以前から存在した手法だが、法改正によって摘発への意欲が組織として高まったと見られる。

業界の「淘汰」——廃業・転換が加速

こうした状況を受け、グレーゾーンで営業を続けてきた多くのメンズエステ店が転換を迫られた。大きく分けると次の3つの動きが業界全体で起きている。

①廃業・撤退 改正施行前後から「法律を守って健全に営業することにした」「これを機に業界を離れる」という宣言をSNSでするセラピストが多数現れた。最大3億円という罰金リスクを前に、継続を諦めた経営者も少なくない。改正施行を境に「メンエスを卒業した」と表明するセラピストが相次いだことは、業界にとって象徴的な出来事だった。

②派遣型への移行 店舗を持たない出張型(デリハル型)への移行を選んだ事業者も多い。マンションの管理組合や近隣住民からの通報リスクがなくなり、継続的な監視も困難になるためだ。ただし弁護士らが指摘するように派遣型に移行したとしても、届出なしに性的サービスを提供すれば無店舗型性風俗特殊営業の無届営業に当たり、依然として違法状態は解消されない。派遣型は「抜け道」ではなく、届出と組み合わせて初めて合法となる形態だ。

③風俗エステへの転換・届出 一定数の事業者は、公安委員会への届出を行って合法的な風俗エステ(届出店)へと転換することを選んだ。性的サービスを前提とするなら、届出を経た上で規定通りに営業するのが唯一の合法的な道だ。

「風俗エステ」が全国で増殖

こうした業界の混乱の中で、むしろ追い風を受けているのが「風俗エステ」と呼ばれる業態だ。正式に風営法の届出を行ったうえでエステサービスを提供する性風俗店であり、合法的に性的サービスが提供できる形態として注目が集まっている。

改正風営法の施行直後から大手ソープグループがメンズエステのサービスを取り入れた新業態店をオープンするなど、従来の性風俗店側からの「風俗エステ」参入も相次いだ。こうした店舗は「風営法遵守の店で安心して稼げる」「摘発の心配がなく安全に働ける」とアピールして求人し、不安を抱えたセラピストたちの受け皿になっている。

お気に入りのセラピストの移籍に伴い、これまでメンズエステを利用していた客が風俗エステに流れるケースも目立ち始めた。これまでのメンズエステが「グレーゾーン」に依存していたのに対し、風俗エステは合法の枠組みの中でほぼ同等のサービスを提供できることから、「空前の風俗エステブーム」ともいえる状況が生まれつつある。

セラピストたちの選択——4つの分岐点

業界の地殻変動の中で、現場のセラピストたちは何を選んでいるのか。大きく4つの方向性に分類できる。

一つ目は届出済みの合法的な風俗エステや派遣型店舗に移籍するルートだ。収入水準を維持しながら摘発リスクをなくす現実的な選択として選ばれている。二つ目は性的サービスを一切提供しない健全系メンズエステへの移籍。客層を絞ることでリスクを低減できる一方、単価が下がる難しさもある。三つ目は一般のリラクゼーションサロンへの転職。収入は下がるが社会的信用度は高い。四つ目はフリーランスや講師業への転身。施術の技術や経験を活かしながら、自らビジネスとして自立する道だ。

業界内のセラピストや講師の間では「これを機に過激な現場から離れ、本来の『癒し』の仕事に戻るチャンス」という前向きな捉え方も広がっており、技術力・接客力・発信力を磨いて自立していく動きが加速している。

「グレーゾーン」の消滅と健全化の行方

改正風営法がメンズエステ業界に与えた最大の変化は、長年にわたって存在した「グレーゾーン」が実質的に消滅しつつある点だ。摘発リスクが法的・経済的に激増したことで、経営者もセラピストも「見て見ぬふり」を続けることが難しくなった。

健全な施術のみを提供するメンズエステにとっては、この変化はむしろ好機だ。過激な店舗が市場から退出することで、真面目に健全営業を続けてきた店舗の評価が相対的に上がる可能性がある。技術と接客で勝負できるセラピストやコンプライアンスを徹底した経営者にとって、法改正は業界の信頼回復に向けた再出発の契機となりうる。

一方で潜在的な需要が消えるわけではないという現実もある。グレーゾーンが縮小すれば、その需要は合法的な風俗エステや届出済み店舗に吸収される形で再構成されていく。業界全体として見れば法整備のもとでより透明性の高い市場が形成されていく方向性は、中長期的には望ましい変化ともいえる。

まとめ——再編が続く業界の1年後

改正風営法施行から約1年。メンズエステ業界は廃業・転換・淘汰が一気に進む激動の時期を経た。全国での摘発事例の積み重ねは、法改正が単なる「警告」ではなく実際に機能していることを証明している。

違法状態での継続は、個人にとって最大1,000万円、法人で最大3億円というリスクを抱えることになる。このリスクを正確に認識したうえで合法的な形に転換するか、健全なサービスに特化するか——選択を迫られた業界がどのような姿に収束していくかは、さらに1年後の状況を見なければわからない。ただ、方向性だけは明確だ。グレーゾーンは縮小し、業界は白黒はっきりした世界へと向かいつつある。

PulseDesk
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Pulse Adult編集部。確認できた情報をもとに、アダルト産業のニュース・規制・カルチャーを取り上げています。
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