アメリカの大手クラウドファンディングサービスKickstarterが、成人向けコンテンツやセクシャルウェルネス製品への規制を大幅に強化した。海外のクリエイター界隈で大きな話題になっているが実はこの問題、日本のファンプラットフォームにとっても他人事ではない。
今回の動きは単なる「アダルト禁止」の話ではない。背景にあるのはVisa・Mastercardといったクレジットカード会社や、Stripeなどの決済代行会社——いわゆる”決済インフラ側”の圧力だ。そしてその圧力は、すでに日本国内でも具体的な形として現れている。
Kickstarterとはどんなサービスなのか
Kickstarterは2009年にスタートしたアメリカのクラウドファンディングサービスだ。クリエイターや企業がプロジェクトを公開し賛同者から資金を募る仕組みで、インディーゲーム、ボードゲーム、ガジェット、映画、音楽、コミック、アートなど幅広い分野で利用されている。海外では非常に知名度が高く、インディーゲーム市場や同人文化の発展にも大きく貢献してきた。
一方、日本国内ではCAMPFIRE、Makuake、READYFORといった国内サービスの方が一般的で、成人向けクリエイターはFantia、DLsite、FANZAなど日本の決済文化に最適化されたプラットフォームを使うケースが多い。
Kickstarterはかつて成人向け案件を積極的に受け入れていた
今回の規制強化が注目される理由のひとつが、これまでの姿勢との大きな矛盾だ。Kickstarterは過去、成人向け・セクシャルウェルネス関連のプロジェクトを数多く受け入れてきた。XBIZの報道によれば、指装着型バイブ、男性向けトレーニング器具、音声再生機能付きプレジャートイなどが実際に資金調達に成功している。スペインのブランド「MyHixel」は2018年以降、複数回のKickstarterキャンペーンを成功させている。
さらに2025年にはKickstarter自らが「Kickstarter After Dark」という成人向けプロジェクト紹介企画を立ち上げ、「NSFWにもKickstarterで居場所がある(Because NSFW deserves a home on Kickstarter)」というメッセージまで掲げていた。
なぜ突然規制が強化されたのか
しかし2026年5月、Kickstarterは成人向けルールを大幅に変更した。新ルールではポルノコンテンツの配布、性的快楽目的の商品、挿入型セックストイ、性的刺激を目的とする製品などが禁止対象となった。さらに海外クリエイターの間では、露出を伴わない性的演出やランジェリー姿の表現なども審査対象になっていると混乱が広がっている。
多くのメディアやクリエイターが指摘しているのが”決済会社の影響”だ。WargamerやKotakuなど複数メディアは決済代行会社Stripeの存在に言及しており、一部クリエイターには「決済パートナーのポリシーに違反する可能性がある」という内容の通知が送られていたとの報告もある。Kickstarter自身は詳細を説明していないが、Visa・Mastercard・Stripeなど決済ネットワーク側からの圧力が働いた可能性が広く指摘されている。
実は日本でもすでに起きていた
海外の出来事に聞こえるが、日本ではすでに同様の現象が現実のものになっている。
Fantiaは2024年5月21日にVisaとMastercardの利用を停止した。現在はJCB・American Express・Diners・とらコイン・コンビニ決済などで対応しているが、日本国内でクレジットカードを持っているユーザーの大半はVisa・Mastercardを使っているため、この制限はファンの課金ハードルを大幅に引き上げている。
MyFansでも2025年4月に事態が起きた。2025年4月16日、MyFansにおいてVISA・MASTERを含めた全てのカードブランドの決済が停止された。その後4月18日には「VISA・MASTERのクレジットカードが再び使用可能となった」とアナウンスされ、条件付きで復活した。2026年現在、MyFansはVisa・Mastercardに対応しているものの、利用者からの報告や決済システムの動向を見ると、全てのカードが常に100%確実に通るわけではないというのが実情だ。
なぜMyFansはFantiaより持ちこたえているのか。MyFansは国内銀行振込・国内決済に完全対応しており、Fantiaで発生したVisa/Master決済停止のような海外カードブランド起因のトラブル影響は受けにくい構造だとされている。要するに、決済処理の仕組みが国内完結型に近いため、海外カードブランドの圧力の波が比較的緩やかにしか届かないということだ。
ただしそれが「安全」を意味するわけではなく、2025年の一時停止が示すように、状況は常に流動的だ。成人向けプラットフォームである以上、いつ同様の圧力が再びかかるかわからない——というのが現実的な見方だろう。
なぜ決済会社はアダルトを嫌うのか
Pornhubでは過去、違法動画問題をきっかけにVisaとMastercardが決済停止を行い、大量の動画削除が発生した。OnlyFansも2021年に一時的な成人向けコンテンツ禁止方針を発表して大炎上したが、その背景には銀行・決済会社側からの圧力があると報じられた。
決済会社がアダルト市場を嫌う理由として挙げられるのは、違法コンテンツの混入リスク、未成年問題、返金・チャージバック、ブランド毀損リスク、各国規制への対応コストなどだ。特に近年はディープフェイク、AI生成、リベンジポルノ、違法アップロードといった問題によりコンテンツ審査が極めて難しくなっており、カード会社側には「問題が起きる前に成人向け市場全体を避けたい」というインセンティブが働きやすい。
結果として「違法だから規制する」ではなく、「リスクが高いから避ける」という形で規制が広がっている。
“決済による検閲”とは何か
近年海外で使われるようになった「Financial Censorship(金融検閲)」という言葉がある。政府による直接規制ではなく、クレジットカード会社・銀行・決済代行会社が事実上コンテンツ流通を制御してしまう現象を指す。
重要なのは、この問題がアダルト業界だけに留まらないことだ。合法的な創作物やフィクション、成人向け表現全体を広範囲に萎縮させる可能性がある。Kickstarterの今回の事例は、AI、同人、ゲーム、アート、あらゆる表現活動に影響するテーマとして、今後さらに議論が広がっていくだろう。
プラットフォームが規制するのではなく、決済ネットワークに合わせて規制せざるを得ない——この構造が強まっている以上、国内サービスも無関係ではいられない。
【2026年5月21日追記】本記事の続報があります。Kickstarterはこのルールを撤回しました。→詳細はこちら

