ホーム風俗アダルトとお金の不都合な関係—なぜ性産業は決済会社に嫌われるのか

アダルトとお金の不都合な関係—なぜ性産業は決済会社に嫌われるのか

数兆円市場が抱える、見えない壁

日本の性産業の市場規模については、数千億円から数兆円まで様々な試算がある。風俗・アダルトコンテンツ・グッズを合わせれば、決して小さくない経済圏であることは確かだ。それでもこの産業はある領域から徹底的に排除されている。金融インフラ、とりわけクレジットカード決済の世界だ。

2022年、国内最大のアダルトプラットフォームであるFANZAがMastercardとの決済契約を終了した。DMM側は「諸条件が折り合わなかった」とのみ説明しており、詳細は公表されていない。ただ国内最大手でさえカードブランドとの契約維持が難しくなった事実は、業界全体に重くのしかかった。では個人クリエイターや中小の風俗事業者はどうしているのか。そしてなぜこれほどまでに決済会社はアダルトを嫌うのか。


なぜ決済会社はアダルトを嫌うのか

チャージバックという爆弾

決済会社がアダルト事業者を避ける最大の実務的理由がチャージバックリスクだ。

チャージバックとは購入者がクレジットカード会社に「身に覚えのない請求だ」と申告し、支払いを取り消させる仕組みだ。カード会社は申告を受けると加盟店から売上を回収する。加盟店は商品・サービスを提供済みであっても返金を余儀なくされる。

アダルト業界は世界的に「High Risk Merchant(高リスク加盟店)」に分類されることが多く、チャージバック率の高さはその主要な理由の一つとして知られている。「家族にバレたくない」という動機による申告や衝動的な購入後の後悔による申告が一因とされているが、統計的に裏付けられたデータは限られている。

カード会社はチャージバック率が一定水準を超えると加盟店契約を解除できる。アダルト事業者はこの閾値を超えやすい構造的リスクを抱えており、決済会社にとっては「関わるだけで損失リスクが高い相手」として映る。

ブランドイメージとESGの壁

VisaやMastercardは世界中の一般消費者が日常的に使うブランドだ。「自分のカードがアダルトコンテンツの購入に使われている」という事実を不快に思う顧客層が一定数存在する。

さらに近年、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の広まりが追い打ちをかけた。機関投資家がESG基準で投資先を選別する時代に、アダルト産業との関係は株主への説明が難しい。上場企業であるカードブランドや決済代行会社にとってアダルト事業者との取引は財務的な問題というより「見せたくない関係」になりつつある。

法的リスクの引き受けを嫌う

未成年保護、同意確認、違法コンテンツの排除—アダルト産業を取り巻く法的リスクは複雑だ。何か問題が起きたとき、決済を処理した会社が民事上の責任追及や訴訟の対象となる場合がある。

実際、海外では違法なアダルトコンテンツの決済を処理したとして、決済代行会社が訴訟に巻き込まれた事例がある。リスクを引き受けるコストと、アダルト事業者から得られる手数料収入を天秤にかけたとき、割に合わないという判断になりやすい。

日本の現状—主要決済代行は軒並み利用困難

こうした理由から日本の主要な決済代行会社はアダルトについて原則として利用が難しい状況にある。GMOペイメントゲートウェイ、SBペイメントサービス(ソフトバンク系)、ペイジェント(みずほ系)—国内の主要プレイヤーは規約でアダルトを禁止または制限している。

個人開発者やスタートアップが最初に触れる決済サービスであるStripeとSquareも、アダルトコンテンツについては原則として利用が難しい。PayPay・楽天ペイ・LINE Payといったキャッシュレス決済はそもそもアダルトを想定した設計になっていない。

市場規模は小さくない。しかし決済インフラへのアクセスはほぼ閉ざされている。これが日本のアダルト産業が直面している現実だ。


アダルト側の工夫と、その限界

FANZAが作った「迂回の多層構造」

国内最大手のFANZAは、この問題に独自のエコシステムで対応してきた。

中心にあるのがDMMポイントだ。ユーザーはコンビニ・電子マネー・銀行振込などでDMMポイントを購入し、そのポイントでFANZAのコンテンツを買う。カード会社から見ると「DMMポイントを購入した」という一般的な取引にすぎず、アダルトコンテンツの購入という記録にはならない。

この迂回が成立するのはDMMポイントの用途がゲーム・電子書籍・通販・動画配信など多岐にわたるためだ。「アダルト専用のポイント」ではないため、カードブランドからの介入を受けにくい。Mastercardとの直接契約を2022年に終了した後も、楽天PayやAmazon Payを経由したポイントチャージという形でMastercard利用者への対応を維持している。

FANZAのカテゴリによって使えるカードブランドが異なる(FANZAブックスはJCB・Dinersのみ、FANZA出会いはVisa・JCBのみ等)のも、コンテンツの性質によってリスク評価が異なり、カードブランドとの交渉結果が反映されている結果と見られる。

ただしこの多層構造を作れるのはDMMクラスの規模と交渉力があるからだ。個人クリエイターや中小事業者が同じことをしようとしても、ポイントシステムの構築コストだけで現実的ではない。

myfansが経験した「一夜にして止まる」現実

ファンクラブ・コンテンツ販売プラットフォームのmyfansが経験した出来事は、この問題の本質を如実に示している。

2025年4月頃myfansで決済トラブルが発生し、Visa・Mastercardを含む全カードブランドの決済が停止する事態となった。myfans公式は「決済システム会社の都合」と説明しており、詳細な理由は公表されていない。その後条件付きで復活したが、決済時に氏名と電話番号の入力が必須となった。本人確認強化や不正利用対策など複数の理由が考えられるが、いずれにせよ匿名性を重視するアダルトコンテンツのユーザーにとっては大きな心理的障壁となった。

同年5月の規約改定では「海外決済」「外貨決済」という言葉が明記された。日本のサービスであるにもかかわらず外貨決済に言及した背景については公式な説明はないが、決済インフラの変更が行われた可能性がある。同規約改定で禁止コンテンツに「飲酒」「違法薬物」を連想させるコンテンツが追加されたことも、何らかの外部要件への対応と見られる。

いずれにせよmyfansの事例が示すのは「現在使えている決済手段が明日も使えるとは限らない」という脆弱性だ。カードブランドや決済代行会社の判断一つで、プラットフォーム全体の収益基盤が一夜にして揺らぐ。

風俗店向けの特化型決済代行

オンラインのアダルトコンテンツだけでなく実店舗の風俗業界にも同じ問題がある。そしてその問題を解決するため、風俗業界に特化した決済代行という業態が存在する。

この仕組みでは風俗店が直接カードブランドと加盟店契約を結ぶのではなく決済代行会社が加盟店として契約し、風俗店はその傘下のサブ加盟店という位置づけになる。カードブランドから見ると取引相手は決済代行会社という構造だ。手数料は一般的な決済代行より高く設定されており、これはリスクに応じたプレミアムと考えられる。

ただしこうした構造についてカードブランドが独自の審査・調査を行っていることも知られており、実態によっては契約解除のリスクを抱える場合もある。

BitCash・仮想通貨・Paidyという出口

カードブランドの規約に縛られない決済手段として電子マネーと仮想通貨がある。BitCashはアダルトサービスとの親和性が高く、FANZAやFantiaでも採用されている。匿名性が高くチャージ式のため購入者の明細にアダルトサービスの名前が残らない点も使われやすい理由だ。

仮想通貨(ビットコイン等)も同様にカードブランドの介入を受けにくい。Fantiaのとらコインチャージ手段として採用されているのはこのためだ。

後払いサービスのPaidyはmyfansで採用されている。Paidyはユーザーに後でまとめて請求する仕組みで、プラットフォーム側から見るとPaidyという一企業からまとめて入金を受け取る形になる。ただしPaidyの親会社は2021年にPayPalに買収されており、今後の方針変更リスクは否定できない。

海外のアダルト特化決済という出口

米国にはCCBillやSegpayといったアダルト産業専門の決済代行業者が合法的に存在する。Visa・Mastercardとアダルト加盟店の間に入り、厳格な審査(60日以上かかることもある)を経てサービスを提供する。OnlyFansをはじめとする海外の大手アダルトプラットフォームはこれらを活用している。

ただし日本語サポートが弱く、審査に英語での書類対応が必要な場合もある。個人クリエイターや小規模事業者には参入障壁が高い現状がある。


決済インフラが握るコンテンツの未来

この問題の本質は、決済インフラを握る者がコンテンツの内容にまで影響力を持つという点だ。

myfansが禁止コンテンツを拡大したのも、Fantiaが今年のガイドライン改定で大幅な規制強化を試みたのも(その後撤回されたが)、背景には何らかの外部からの圧力があったと見られる。カードブランドや決済代行会社は直接コンテンツを規制しているわけではないが、「決済を止める」というカードを持つことで、プラットフォームのコンテンツ基準に間接的に影響を与え得る。

アダルト産業が金融インフラから排除される構造は、単に「エロは嫌われている」という話ではない。ESG・ブランドイメージ・チャージバックリスク・法的リスクという複数の経済合理性が重なった結果だ。そしてその結果として、性産業は常に綱渡りの決済環境の中で運営を強いられている。

ポイントで迂回し電子マネーで補い海外業者に頼り、それでも決済インフラの一声でひっくり返るリスクを抱える—これがアダルト産業と金融の間にある、不都合な現実だ。

PulseDesk
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Pulse Adult編集部。確認できた情報をもとに、アダルト産業のニュース・規制・カルチャーを取り上げています。
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