ホーム事件・事故風俗スカウトはどこから犯罪になるか—職業安定法と「有害業務」の境界線

風俗スカウトはどこから犯罪になるか—職業安定法と「有害業務」の境界線

群馬で起きた逮捕事件

2026年5月27日、群馬県警は仙台市在住の会社役員の男(35)を職業安定法違反の疑いで逮捕した。容疑は2024年4〜5月、伊勢崎市のメンズエステ店に20代の女性3人をSNS経由で紹介したというもの。男は「何のことか分かりません」と容疑を否認している。

報道によると、男は紹介した女性の売り上げの一部を店側から受け取っていたほか、女性を勧誘するスカウトたちに匿名性の高いSNSで指示を出し、報酬を配分していたという。県警はこの男を風俗店への紹介を業とする匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)のリーダーとみて実態解明を進めている。

ここで一つの疑問が浮かぶ。女性を風俗店に紹介して、謝礼として一度だけお金を受け取る—こうした行為は犯罪になるのだろうか。

この記事では、スカウト行為をめぐる法律の構造を整理する。


「有害業務の紹介」とは何か

今回の逮捕の根拠となった職業安定法第63条2号は、次のように規定している。

「公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で職業紹介、労働者の募集、募集情報等提供若しくは労働者の供給を行い、又はこれらに従事したとき」

違反した場合の法定刑は1年以上10年以下の拘禁刑または20万円以上300万円以下の罰金だ。刑事事件のなかでもかなり重い部類に入る。

問題は「有害な業務」とは何かという点だ。ソープランドやファッションヘルス、ストリップ、アダルトビデオなどの性産業については、本番行為をせずに性交類似行為に留まり売春防止法に違反せず風俗営業法を遵守していたとしても「公衆道徳上有害な業務」という判例が確立している。

つまりメンズエステやデリヘルが「合法的に営業している店舗」であっても、そこに女性を紹介する行為は有害業務の紹介に該当する。「合法の店だから問題ない」という理屈は通じない。


一度限り・無償で・個人でも犯罪は成立するか

ここが本記事の核心だ。いくつかのケースに分けて整理する。

「一度だけ紹介した」場合

性風俗へのスカウトは職業安定法が禁止する有害業務目的紹介に該当する。条文には「継続して行うこと」「業として行うこと」という要件が明示されていない。一度の紹介行為でも違反は成立し得る。

ただし実務上、単発・個人の案件が即座に逮捕に至るケースは少ない。捜査機関の優先度として組織的・継続的に多数の女性を紹介しているグループの摘発が先になるからだ。「一回だから大丈夫」という考え方は法律上まったく根拠がないが、現実の摘発リスクとは別の話でもある。

「対価をもらっていない・無償だった」場合

ここは多くの人が誤解しやすい点だ。職業安定法63条2号が罰するのは「公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で」職業紹介等を行うことであり、対価の有無は犯罪成立の要件に含まれていない。無償で紹介しても相手が風俗店であると知っていれば「有害業務に就かせる目的があった」と認定される可能性がある。「お金をもらっていないから大丈夫」は法的には根拠がない。

「謝礼を押し付けられて受け取ってしまった」場合

これはさらに二段階で考える必要がある。まず紹介行為の時点で「有害業務に就かせる目的」があったかどうか—純粋に友人に仕事を教えた認識だったとしても、相手が風俗店であると知っていれば目的の認定を免れることは難しい。

次に受け取った謝礼の問題だ。仮にその謝礼がスカウトバックにあたる場合、受け取った側にも組織犯罪処罰法上の「犯罪収益等収受」が成立する可能性がある。つまり紹介した側だけでなく、受け取った側も罪に問われ得るということだ。「押し付けられたから仕方なかった」は情状として考慮される余地はあるが、受け取った事実そのものが問題になる。

「友人・知人への善意の紹介」だった場合

「困っている友人に仕事を教えてあげただけ」というケースはどうか。これも「相手が風俗店であると知っていた」という点が認定されれば、善意であることは成立要件に影響しない。業務に就くことについて個々の労働者の希望ないし承諾があったとしても犯罪の成否に何ら影響しないとした判例があるように、当事者全員が合意していても犯罪は成立し得る。紹介者の動機や善意は、量刑判断において考慮される可能性はあるが、違法性そのものを消すものではない。

まとめると「一度・無償・善意・友人への紹介」という条件が重なっても相手が風俗店であると知っていた以上、職業安定法63条2号の違反は成立し得る。割のいいバイト感覚で違法なスカウト行為に手を染めている人も少なくないが、そのような行為も犯罪であるため逮捕・起訴される可能性は十分にある。摘発リスクの高低と違法かどうかは、まったく別の問題だ。


女性本人が同意していても関係ない

もうひとつの誤解が「女性が自分から希望していたのだから問題ない」という認識だ。

労働者派遣法第58条の規定は「労働者一般を保護することを目的とするものであるから、右業務に就くことについて個々の派遣労働者の希望ないし承諾があったとしても、犯罪の成否に何ら影響しない」とされた判例がある。職業安定法も同様の解釈が適用される。女性の同意は、紹介者の犯罪成立を左右しない。


スカウトバックという仕組みと法の網

今回の事件で問題になった「女性の売り上げの一部を店側から受け取る」という仕組みは、業界用語で「スカウトバック」と呼ばれる。スカウトグループは契約している全国の性風俗店に女性を紹介し、紹介を受けた女性が稼働した売り上げの一部が店側からスカウトグループに支払われる仕組みになっていた。

このスカウトバックには、職業安定法だけでなく複数の法律が絡む。

性風俗に女性を紹介しその見返りとして売上の一部を受け取る「スカウトバック」は、組織犯罪処罰法の犯罪収益等収受の罪に該当するため3年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性がある。

さらに2025年5月、改正風営法が国会で可決・成立した。改正風営法により性風俗店によるスカウトバックが禁止され、違反者に対しては6か月以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金またはこれらの併科となる。スカウトバックを「受け取る側」だけでなく「支払う店側」も処罰対象に加えることで、規制の範囲がスカウトから店舗側まで両端をカバーする形に広がった。


トクリュウとSNSスカウトの実態

今回の群馬の事件が注目されるのは、容疑者がトクリュウのリーダー格とみられている点だ。

こういったスカウトグループによるスカウト行為のほとんどは、実際に街中で声をかけるといったものではなくSNS上で行われていた。SNS上で募った女性を契約している全国の性風俗店に一斉に紹介し、店側から女性の1日の稼ぎとして約束する「最低保証金」を提示させて、最終的に最低保証金の高かった店に女性を紹介するというシステムだった。

街頭で声をかける従来型のスカウトは目立つ分だけ摘発リスクが高い。SNSに移行することで匿名性が確保され、指示系統も見えにくくなる。今回の事件でも、匿名性の高いSNSでスカウトへの指示が行われていたとされている。

警察庁のまとめによれば2024年に摘発したトクリュウメンバー約1万人のうち、指示役や首謀者はおよそ1割で摘発者全体の約4割がSNSなどを通じて集められたいわゆる「闇バイト」だった。実行役は上位者の素性を知らないことが多く、「頼まれただけ」「バイト感覚でやった」という動機で関与した末に逮捕されるケースが相次いでいる。


規制強化の背景—悪質ホスト問題との連動

近年のスカウト規制強化には、悪質ホストクラブ問題が大きく影響している。

悪質ホストクラブ事案ではホストが女性客に対しホストクラブでの料金支払いのため性風俗店で働くことを要求し、いわゆるスカウトなどに依頼してその女性客を性風俗店等に紹介する事例があり、性風俗店がスカウトに対し紹介に係る対価としてスカウトバックを支払うものが散見された。

ホストで積み上がった借金を返済するために風俗で働かされる—この構造がクローズアップされたことで、スカウトバックを媒介とした搾取の連鎖が問題視されるようになった。改正風営法のスカウトバック禁止はこの流れを受けたものだ。


まとめ—「知らなかった」は通じない

整理すると、風俗店への職業紹介をめぐる法律の構造はこうなっている。

紹介行為そのものが職業安定法第63条2号に該当し、一回限りでも対価を得た時点で違反は成立し得る。そこに組織的な関与が加わると組織犯罪処罰法が適用され、店側がスカウトバックを支払えば改正風営法にも抵触する。複数の法律が重なる形で規制網が張られている。

「一度だけ知り合いを紹介した」「女性が自分から希望していた」「合法の店だった」—いずれも犯罪成立を免れる理由にはならない。

性風俗店への紹介は、職業安定法や都道府県迷惑防止条例、組織犯罪処罰法などに違反する違法な行為であるため、逮捕されれば起訴されて有罪になる可能性が高い。

捜査当局がトクリュウ解体に向けて「カネの流れを追う」方針に転換している現在、スカウトに関与した人物は末端であっても逮捕対象になる可能性がある。「割のいいバイト」として軽い気持ちで関わることの法的リスクは、以前とは比較にならないほど高まっている。

PulseDesk
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Pulse Adult編集部。確認できた情報をもとに、アダルト産業のニュース・規制・カルチャーを取り上げています。
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