生成AIの急速な普及に伴い、「AIだから実在しない。だから問題ない」という認識のもとで性的コンテンツを生成・所持・販売する行為が急増している。しかし現実には2025年以降の日本でAI関連の「全国初」逮捕事例が相次ぎ、その論理は通用しなくなりつつある。本記事では実際の判例と適用法律、海外の規制動向、そして今後どういった未来が訪れるかを整理する。
2025年、日本で相次いだ「全国初」の逮捕
2025年以降、日本ではAIを用いた逮捕事案、しかも「全国初」が相次いでいる。主な事例を時系列で見ていく。
2025年4月—生成AIわいせつ物販売で全国初逮捕 2025年4月、生成AIでわいせつポスターを制作しインターネットオークションで販売した男らが、わいせつ図画頒布(刑法第175条)の容疑で逮捕された。生成AIを使用したわいせつ物販売事件での逮捕は全国で初めてだった。
2025年10月—芸能人に酷似した画像の販売で全国初摘発 2025年10月、性的画像約2万点をSNSに掲載し約120万円の閲覧料を得ていた男が逮捕された。生成AIで作成された芸能人らに似せたわいせつ画像の摘発は全国初だった。
2025年12月—AI生成画像を児童ポルノとして起訴、全国初 最も注目すべき事例がこれだ。2025年12月、名古屋市の元小学校教諭(34)が勤務先の学校のデジタルカメラで撮影した児童の画像を持ち出し、生成AIを用いた画像編集サイトで児童ポルノを作成するよう別人物に依頼。完成した画像を所持したとして児童ポルノ禁止法違反で起訴された。生成AIで作ったとみられる画像を児童ポルノとして逮捕・起訴したのは全国で初めてだった。
適用された法律—2つの軸
これらの事件に適用された法律は主に2つだ。
① 刑法第175条(わいせつ物頒布等罪) わいせつ物頒布等罪とは「わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、または公然と陳列したとき」「電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布したとき」に成立する犯罪類型で、デジタルデータを含む形で2024年に改正されたものだ。つまり架空のキャラクターであっても性的描写の「わいせつ性」が認められ、かつ不特定多数に向けて頒布・販売すれば摘発対象になる。
② 児童ポルノ禁止法 こちらは構造がより複雑だ。日本の児童ポルノ禁止法は「実在する児童」を対象とする構造のため、架空のAI生成のみで完結する未成年表現は、原則として同法の直接の罰則対象には当たらないとされている。
しかし上述の水藤被告の事例では実在する児童の写真を素材としてAI生成画像が作られていたため、「実在する児童」を対象とした同法の適用が可能だった。「完全に架空のキャラクターだから合法」という抜け道は、実在の画像を素材に使った時点で消える。
「架空キャラクター」は本当に安全か
では完全に架空のAI生成キャラクターが登場する性的コンテンツはどうか。現行の解釈では児童ポルノ禁止法の直接適用は困難とされているが、「安全」と言い切れる状況ではない。
第一にわいせつ物頒布罪は適用される。架空かどうかは関係なく、わいせつ性があれば頒布・販売行為は犯罪だ。
第二に条例レベルでの規制が始まっている。鳥取県は2025年4月1日付で改正「鳥取県青少年健全育成条例」を施行し、生成AIによる児童ポルノの作成を明示的に禁止した。国法ではまだグレーゾーンでも、条例が先行して規制を埋めるという動きがすでに起きている。
第三に「18歳未満に見える」という判断は捜査機関の裁量に大きく委ねられる。成人設定のキャラクターでも外見が幼く見えれば問題になりうるという萎縮効果は、業界全体に広がっている。
海外では何が起きているか
世界の動きは日本よりはるかに速い。
米国—TAKE IT DOWN Act(2025年5月成立) 2025年5月19日、トランプ大統領が署名したTAKE IT DOWN Actは、非同意の性的画像(AI生成ディープフェイクを含む)の公開を連邦犯罪とした。違反者には最大3年の禁固刑と罰金が科され、プラットフォームは通知から48時間以内にコンテンツを削除する義務を負う。注目すべきは2026年4月、オハイオ州の男性がAIで近隣住民の性的画像を作成しCSAM(児童性的虐待素材)を宣伝するサイトで共有したとして、同法初の有罪判決を受けた点だ。法律が成立してから1年以内に実際の適用が始まっている。
EU—AIアクト+デジタルサービス法 EUのAIアクトはAIによる身元詐称の最悪ケースを禁止し、AI生成コンテンツの透明性確保を義務付ける包括的な規制体系だ。2025年中頃に主要規定が発効している。
英国—オンライン安全法(2023年) 英国のオンライン安全法は非同意の性的ディープフェイク画像の共有・脅迫を違法とし、プラットフォームに通知後の迅速な削除を義務付けている。さらに2025年にはこうした画像の「作成行為」そのものへの規制も強化された。
生成AIと児童性的コンテンツ—世界規模の急増という現実
法整備を急かしているのは、被害の急増という現実だ。インターネット・ウォッチ・ファウンデーションは、2025年前半にAI生成の児童性的虐待コンテンツを含むウェブページを210件記録しており、これは2024年同期比400%増だった。2024年前半にAI動画の報告はわずか2件だったが、2025年前半には1,286件が報告され、そのうち1,006件が実際の映像と区別がつかないほどリアルなものだったという。
日本でも状況は深刻だ。2025年3月から6月にかけての調査では、児童とみられる性的ディープフェイク被害画像・動画が250件以上発見された。また同年3月から4カ月で確認された中には、1枚の画像から10数秒でヌード画像が生成できるツールによる被害も含まれている。
これからどうなるか—3つの方向性
① 日本の児童ポルノ禁止法の改正 「実在する児童」に限定した現行法の構造は、AI生成コンテンツの急増を受けて見直しを迫られている。架空キャラクターへの適用拡大は表現の自由との兼ね合いで国会でも議論が続いているが、規制強化の方向性は不可避だ。
② プラットフォーム規制の強化 Fantiaのモザイク基準厳格化に見られるように、法改正を待たずにプラットフォーム側が自主規制を先行させる流れは続く。決済事業者や金融機関からの圧力も加わり、「法的にグレーでもビジネス的に不可能」という状況が広がっていく。
③ AI生成コンテンツへの「出所追跡」義務化 EUのAIアクト第50条は最も包括的なフレームワークとして、AI生成コンテンツへのラベル付けや出所追跡(プロベナンス)を義務付けている。米国でも同様の動きが進んでおり、2026年8月にはEU AIアクトの透明性要件が完全適用される予定だ。日本も遠からずこの流れに合流するだろう。
「AIだから誰も傷つかない」という論理は、技術と法律の両方の観点から急速に崩れつつある。生成AIが関わるコンテンツの制作・販売・所持は、今後ますます慎重な判断が求められる領域になっていく。

