ホーム風俗それは犯罪かもしれない—風俗業界に潜む人身売買の実態と、あなたにできること

それは犯罪かもしれない—風俗業界に潜む人身売買の実態と、あなたにできること

「同意があれば問題ない」は通じない

まず、重要な前提を確認しておきたい。

人身売買(人身取引)の定義は、「搾取を目的として、暴力・脅迫・詐欺・誘拐・借金などの手段を用いて人を獲得・輸送・収受する行為」だ。これは国連の人身取引議定書(パレルモ議定書)に基づく国際的な定義であり、日本の警察もこの基準で取り締まりを行っている。

ここで押さえておきたいのが、被害者が同意していても犯罪が成立するという点だ。

議定書の条文には明確に「被害者が搾取について同意しているか否かを問わない」と書かれている。「自分から望んでやっている」「本人が承諾している」という言い訳は、法律の前では通用しない。借金を背負わせること、恋愛感情を利用すること、家族にばらすと脅すこと—こうした手段が使われた時点で、被害者の「同意」に関係なく犯罪は成立する。

さらに重要な点がある。被害者が18歳未満の児童の場合、暴力・脅迫・借金・だましといった手段を使っていなくても人身取引が成立する。「優しくしてあげる」「泊めてあげる」といった言葉だけで連れ出し、搾取した場合でも犯罪だ。未成年に対しては「同意があった」「脅していない」という言い訳が一切通用しない。


警察庁が示す6つのケース—風俗に直結する手口

警察庁は人身取引の典型的な手口として6つのケースを公開している。そのうちの多くが、風俗業界と直接関係するものだ。

ケース1:恋愛感情を利用した援助交際の強要

SNSで知り合った男性と交際に発展する。将来の結婚をほのめかしながら関係を深めた後、「好きなら援助交際してお金を稼いできて」と要求される。断ろうとすると「家族にばらす」と脅され、拒否できない状態に。交際相手が自分になりすましてSNSで買春を呼びかけ、常にスマートフォンで監視される。稼いだ金はほとんど取り上げられ、被害は長期間続く。

「好きだから」「別れたくないから」—その気持ちを利用する犯罪だ。

ケース2:ホスト沼から売春・風俗への流れ

知り合いに誘われてホストクラブに通い始め、やがて金がなくなりツケを重ねる。返済できないでいると店のオーナーから「売春して借金を返せ」と脅され、指示された相手と売春させられる。自分の借金残額がいくらなのか知らされないままノルマを課され、渡されるのはホテル代と少額の生活費のみ。「借金の返済が終わっていない」と言われ続け、長期間にわたって搾取される。

被害の形は一つではない。路上で不特定多数の男性と売春させられるケースもあれば、ホストやスカウトが特定の風俗店に紹介するケースもある。前者は売春防止法違反、後者は職業安定法違反(有害業務目的紹介)に該当し、いずれも犯罪だ。実際にホストクラブ従業員が売掛金の返済名目で客の女性をスカウトを介してソープランドに紹介し売春させた事案が検挙されている。

令和6年の警察庁統計によれば悪質ホストクラブに関連する検挙は81事件・207人に上り、前年比でホストの検挙が54人増加している。「ホスト沼→売春・風俗への誘導」は今や組織的な犯罪の典型ルートとして認識されており、紹介した側のホストやスカウトも厳しく摘発されている。

ケース3:SNSのバイト募集を使った手口

「イベントを手伝ってほしい」というSNSの投稿に軽い気持ちで応募する。待ち合わせ場所から車で別の場所に連れて行かれ、そこで「男性客に体を触らせる仕事だ」と告げられる。帰る手段もなく言うことを聞くしかない状態にされ、欠勤・遅刻するとペナルティを科される。家族にばらされることを恐れて誰にも相談できず、辞めたくても辞めさせてもらえない。

ケース4:外国人を対象としたパスポートの取り上げ

日本で働くダンサーとしてスカウトされた外国人女性が、来日すると同時にパスポートと携帯電話を取り上げられる。実際はホステスの仕事だと告げられ、狭いアパートに複数人で住まわされながら接待を強要される。知らない土地で日本語もわからず携帯電話もないため助けを求められない。週に数千円程度で毎日深夜まで働かされ、外出も制限される。

外国人キャストを雇用している店舗でパスポートを「保管」しているケースは今でもある。これは犯罪行為だ。


令和6年の統計が示すもの

警察庁が公表した「令和6年における風俗関係事犯等の取締り状況」(令和7年4月)から、人身取引に関するデータを整理する。

令和6年中に認知された人身取引被害者は63人で、96件・57人の被疑者が検挙された。

被害者の国籍内訳を見ると日本人が58人で全体の約9割を占める。「人身取引=外国人の問題」というイメージがあるとすれば、それは誤りだ。被害者の大多数は日本人であり、日本語が話せる環境にあっても逃げられない状況に追い込まれている。

さらに深刻なのが年齢構成だ。日本人被害者58人のうち、18歳未満が41人—全体の約7割を占める。成人してから被害を受けるケースより、未成年のうちから被害が始まるケースの方が圧倒的に多い。

ただしこの63人という数字は「認知された」被害者数に過ぎない。実際の被害者はこの何倍もいると推測されており、水面下で続く被害の多さがこの問題の本質的な難しさだ。


「身近にいませんか?」—気づきのサインを知っておく

被害者は自ら助けを求めることが難しい状況に置かれていることが多い。だからこそ、周囲の気づきが被害を止める唯一の手段になることがある。

警察庁が挙げる「兆し」として、次のようなものがある。

自分自身が被害者になりかけているサイン

  • SNSで知り合った相手から「好きなら援助交際してお金を稼いできて」としつこく言われている
  • ホストクラブに通い続け、ツケが膨らんでいるが返済の見通しが立たない
  • SNSで知り合った人に性的な写真を送ったら「売春しなければばらまく」と脅されている
  • 「日本で働けばすぐに大金が稼げる」という話で来日したら、パスポートを取り上げられた

周囲に被害者がいる可能性のあるサイン

  • ホストクラブに通っている友人が、最近急に性風俗店で働き始めた様子がある
  • 友人がSNSでパパ活や援助交際の相手を探している様子があり、すでに性的な行為を受けているかもしれない
  • 同じアカウントで援助交際の相手を繰り返し求めているSNS投稿がある
  • 片言の日本語を話す女性が複数人で同じアパートに住んでおり、帰宅が常に深夜だ

風俗業界に携わるひとやその周辺にいるひとであれば、こうしたサインに気づく機会が一般の人よりも多い。「なんとなく変だ」という感覚を大切にしてほしい。


通報する方法—匿名で、しかも情報料がもらえる

「通報したいけれど、自分が特定されたくない」—そう感じて躊躇する人は多いだろう。その不安に応える仕組みが用意されている。

警察相談専用電話 #9110

緊急ではなく、まず相談したい場合に使える電話番号。最寄りの警察本部・警察署の相談窓口につながる。

匿名通報ダイヤル(tokumei24.jp)

警察庁の委託を受けた民間団体が運営する匿名通報の仕組みだ。電話(0120-924-839)またはウェブサイトから通報できる。名前を名乗る必要はなく、個人が特定される情報を提供する義務もない。

そして、あまり知られていない重要な事実がある。有力な情報を提供した場合、最大100万円の情報料が支払われる

これは「密告に金を払う」という話ではなく、潜在化しやすい犯罪を社会全体で防ぐための仕組みだ。情報が犯人の検挙や被害者の保護につながった場合に、一定の基準に基づいて情報料が支払われる。匿名のまま通報でき、かつその通報が社会的に意味を持ち報われる可能性がある—こうした制度があることを知っておくことは、通報へのハードルを下げる意味で重要だ。

なお匿名通報ダイヤルの対象は、人身取引事犯のほか暴力団関与犯罪・薬物・特殊詐欺・児童虐待なども含む。

NGO女性相談窓口

緊急で警察に連絡することをためらう場合や、まず相談したい場合はNGOに頼ることもできる。

  • 03-3368-8855
  • 090-8001-4695

自分が被害者かもしれないと思ったら

もし自分自身が被害を受けていると感じたら、あるいは今まさにその状況にあると気づいたなら—まずこのことを知ってほしい。

あなたに同意があったとしても脅されたり借金を負わされていたりする場合は、相手が犯罪者であなたは被害者だ。

借金があるから逃げられない、家族に知られたくない、誰に相談したらいいかわからない—こうした状況に陥らせること自体が犯罪の手口のひとつだ。警察に相談しても、あなたの秘密は守られる。

#9110に電話するのが怖ければ、まずNGOへの相談でも構わない。匿名通報ダイヤルのウェブサイトから、被害状況を入力するだけでも情報は警察に届く。

一人で抱え込まないでほしい。


風俗業界全体の健全化のために

令和6年の統計では、悪質ホストクラブに関連する検挙が前年比で大幅に増加した。これはホスト→風俗への誘導ルートに対する取締りが強化されていることを意味している。

健全に営業している風俗店・メンズエステ・キャバクラにとっても、人身取引が横行する業界環境は迷惑でしかない。被害者を強制的に働かせている店と正規に営業している店が同じ土俵に立たされることへの理不尽さは、業界に関わるひとであれば誰もが感じているはずだ。

周囲のおかしなサインに気づいたとき、見て見ぬふりをしないこと。それが業界の健全化と、目の前にいるかもしれない被害者を救うことに直結する。


【相談・通報先まとめ】

緊急の場合:110番または最寄りの警察署

相談:警察相談専用電話 #9110

匿名通報(有力情報には最大100万円):tokumei24.jp / 電話 0120-924-839(月〜金 10:00〜17:00)

NGO女性相談窓口:03-3368-8855 / 090-8001-4695

外国人向け(多言語対応):地方出入国在留管理局 0570-013904

PulseDesk
PulseDeskhttps://www.pulseadult.com/
Pulse Adult編集部。確認できた情報をもとに、アダルト産業のニュース・規制・カルチャーを取り上げています。
RELATED ARTICLES

人気のエントリー