ホーム風俗風俗カメラマンという仕事—1000人以上を撮って見えてきたもの

風俗カメラマンという仕事—1000人以上を撮って見えてきたもの

サンデー毎日にこんなルポが載った。政治記者が偶然、風俗カメラマンの写真展に立ち寄ったことをきっかけに、その世界へ踏み込んでいく記事だ。元風俗嬢がカメラマンに転身したATARU氏、理学療法士からラブホテル撮影を専門にした奥山まめ氏、OLから風俗嬢を経て写真家になったイチノセ氏—それぞれの人間ドラマが描かれていて、読み応えがある。

私は約20年前から10年間、風俗カメラマンとして活動していた。主な被写体はデリヘルのキャストだったが、ソープで働く女性を撮影したこともある。延べ人数にすれば1000人を超える。このルポを読んで大いに頷きながら自分の経験と重なる部分、そして少し補足できる部分があると感じたので書いてみたいと思う。


白背景の時代から、セット撮影の時代へ

私が撮影を始めた頃、風俗写真の定番は白背景だった。照明で均一に明るくした白いバックペーパーの前に立ってもらい、撮る。シンプルで清潔感があり、被写体の輪郭がはっきり出る。

それが変わったのは、ここ10年ほどの話だ。今やソファや鏡台などを配した雰囲気のあるセットを使った撮影が主流になっている。白背景が「商品写真」的な印象を与えるとすれば、セット撮影は「物語のある写真」に近い。

この移行のきっかけは、店舗による意識の変化と差別化だったように思う。白背景が当たり前だった時代、セット写真は目を引いた。横並びの写真なかで映える。それが広まるにつれてスタンダードになっていった。

媒体の変化も遠因としてある。かつては紙媒体が主流で、女の子を一人ひとり切り抜いてずらりと並べる広告フォーマットが一般的だった。そのため白背景での撮影は切り抜き作業との相性が良く、実務上の理由でも定番であり続けた。しかしウェブへの移行が進むと切り抜いて並べるという手法は必須ではなくなり、写真一枚で世界観を作る方向に自然とシフトしていった。

ユーザーの目も肥え写真のクオリティが集客に直結する構造はいっそう明確になり、写真の重要性は今も変わらない。


ほとんどの女の子は「お店に言われたから来た」

ルポにも、風俗カメラマンの仕事はポートレートとも記念写真とも似て非なるものだと書かれている。まったくその通りだと思う。

プロのモデルは、カメラの前に立つことを仕事として習得している。表情の作り方、体の向け方、光の受け方—それを自分でコントロールできる。しかし風俗嬢の大半は素人だ。カメラの前で下着姿になった経験などほとんどなく、ポーズをとったこともない。

しかも厄介なのは、撮影に対する意識の低さだ。

意識の高いベテランキャストは、写真が指名に直結することを体感として知っている。だから「いい写真を撮りたい」という明確な意志を持って来てくれる。しかしほとんどの場合、来る動機は「お店に言われたから」だ。撮影を面倒くさいと思っている子の方が多い、というのが正直なところだ。

これは撮影する側にとって、実はかなり重要な問題だ。

撮影を「嫌な体験」として認識されてしまうと、その後の撮影機会が失われるからだ。入店して2年が経つのに最初に撮った写真から一切更新されていないキャストがいる。それはお店にとっても損失だし、本人にとっても機会損失だ。写真を更新するたびにアクセスが増え、指名が増えるという好循環があるはずなのに、そのサイクルに乗れていない。

だが私が目指していたのは、「撮影が好き!」という子を育てることではなかった。そこまでは本人の資質もある。目標は「面倒くさいけど、行けば行ったで楽しい」というレベルに認識を変えてもらうことだ。それだけで定期的に来てくれるようになる。


「好かれようとするな、嫌われないようにしろ」

では、どうやってその空気を作るか。

これについては、先輩から言われた言葉が今でも核にある。

「好かれようとするな。嫌われないようにしろ」

最初に聞いたとき、少し意外に感じた。サービス業的な発想で言えば、「好かれる」方がいい、という直感がある。しかし考えてみると、これは理にかなっている。好かれようとすると積極的なアプローチが必要になる。ところが相手によっては、そのアプローチ自体が苦手だという子もいる。馴れ馴れしさが逆効果になる。

一方、「嫌われない」ことを意識すると、振る舞いが穏やかで一定になる。大きな声を出さない、急かさない、無理なことを要求しない。その安定した空気が、初対面の緊張を少しずつ和らげていく。

もう一つ徹底していたのが、ドライな振る舞いだ。

特に風俗未経験のキャストはカメラマンに対して警戒心がある。「いやらしい目で見られるんじゃないか」という不安だ。だからあえてそこをドライに処理する。

言葉の選び方もそのひとつだ。「おっぱいを寄せてください」とは言わない。「バストを寄せてください」と言う。たった一語の違いだが、受け取る側の印象は大きく変わる。前者には性的なニュアンスが滲む。後者は身体の部位を指示する技術的な言葉として伝わる。

肌には直接触れないことも自分の中のルールとして徹底していた。ポーズの指示はすべて言葉だけで行う。ただ一点、ハイヒールだけは例外にしていた。足首の角度を微調整したいとき、言葉だけでは伝わりにくい。そういう場合はハイヒールに直接触れて角度を変えた。靴を通した接触は皮膚への接触と明確に異なる。そのラインを自分なりに引いていた。


緊張は「解きほぐす」ものではなかった

和やかで穏やかな空気を意識し、世間話を挟みながら撮影を進める。そうしていると自然と場が柔らかくなっていく—と書くと、まるでカメラマンの技術で緊張を溶かしているようだが、実際はもう少し違うメカニズムが働いていた。

撮影はフィジカルな負荷が思いのほか大きい。

普段やらないポーズを1時間近く繰り返す。使い慣れていない筋肉に、これまで経験したことのない負荷がかかる。動いて止まってポーズを作って、また動く。これを繰り返しているとキャストの意識は別のところに向かっていく。「このカメラマンはどんな人物なのか」「どう見られているのか」という緊張の原因よりも、目の前の指示をこなすことに集中せざるを得なくなる。

結果的に緊張がほぐれていく。これは意図して設計したことではなく、撮影という行為そのものが持つ構造として起きることだ。翌日に筋肉痛が来るという話は、通っていたキャストからよく聞いた。それくらい撮影は体を使う。


宣材写真が変えるもの

1000人を撮って一番強く感じていたのは、写真一枚の持つ力だ。

ATARU氏はかつて「売れない風俗嬢」だったが、1枚の写真で人気が出た。その体験がカメラマンへの転身を決意させたと語っている。これは特別な話ではなく、似たような経験は現場で何度も目撃している。

写真が変わると指名が変わる。指名が変わると収入が変わる。収入が変わると仕事への向き合い方が変わる。そのサイクルを引き起こす最初のトリガーが宣材写真だ。

しかもそれは外見の問題だけではない。どんな表情をしているか、どんな空気を纏っているか、その写真を通じて伝わるものが、見た人の「会ってみたい」という気持ちを引き出す。プロのモデルでも女優でもない、素人の女性たちの魅力を引き出すこと—それが風俗カメラマンの本質的な仕事だと、今でも思っている。


ルポは「現場を見て、懸命に目の前の仕事に向き合う人々の姿を少しでも知ってほしい」という言葉で締められていた。10年間現場にいた人間として、その言葉には深く頷く。

風俗という言葉が持つイメージと現場で実際に起きていることの間には、まだ大きな距離がある。ただ、その距離は少しずつ縮まっている気もする。かつては名前を伏せてアルバイトで撮影していたカメラマンが今は堂々と名前を出して活動している。それ自体が、時代の変化を映している。


知られざる「風俗カメラマン」の世界 政治記者が魅せられた傑作と波瀾万丈の人生 ジャーナリスト・山田厚俊
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20260514/se1/00m/020/001000d

PulseDesk
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Pulse Adult編集部。確認できた情報をもとに、アダルト産業のニュース・規制・カルチャーを取り上げています。
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