ホーム風俗デリヘル税務署員はなぜデリヘルで働いたのか—公務員の兼業禁止と「推し活経済」の現実

税務署員はなぜデリヘルで働いたのか—公務員の兼業禁止と「推し活経済」の現実

事件の概要

2026年5月27日、関東信越国税局が発表した懲戒処分の内容が明らかになった。埼玉県内の税務署に勤務する20代の女性職員が、許可を得ずにデリバリーヘルス5店舗で61日間働き約180万円の収入を得ていたとして、減給10分の2(3カ月)の懲戒処分を受けたというものだ。さらに同期間中、SNSで知り合った男性約30人から約50万円のパパ活収入も得ていた。職員は処分翌日に依願退職している。

動機は「地下アイドルの推し活に金銭が必要だった」。

この事件には二つの論点がある。ひとつは「公務員はなぜ兼業できないのか」という法律の問題—そもそも風俗かどうか以前に、公務員は原則として兼業が禁止されている。そしてもうひとつは「推し活にどれほどのお金がかかるのか」という現実の問題だ。

公務員の兼業が禁止されている理由

まず法律の話から整理しよう。

国家公務員法第103条で、国家公務員は営利を目的とする企業や団体の役員等との兼業や自営業ができないと規定されている。同法第104条では営利企業以外の事業の団体についても同様のことを規定して、国家公務員の兼業を禁止している。

なぜこれほど厳しく制限されているのか。国家公務員は「全体の奉仕者」として、職務専念義務・秘密保持義務・信用失墜行為の禁止といった義務を負っている。営利目的の兼業は、これらの義務と根本的に相容れないとされているからだ。

兼業許可が認められない主な基準として、兼業のため勤務時間を割くことで職務の遂行に支障が生じる場合、国家公務員としての信用を傷つけ、または官職全体の不名誉となるおそれがある場合などが挙げられている。

風俗店での就労はこの「信用を傷つける」行為に明確に該当する。たとえ勤務時間外であっても勤務先に関係のない場所での行為であっても、公務員としての身分を持つ以上、職場外での行動は職業の信用と不可分だ。

今回の事案では「情報提供があり発覚した」とされている。誰かが通報したということだ。職場の同僚か、風俗店で知り合った客か、あるいは別の経路かはわからない。いずれにせよ、副業が外部に知られた瞬間に発覚するリスクが常に伴う。


「公務員は副業できない」が変わりつつある

一方で、時代の流れの中でこの規制は少しずつ変化している。

人事院は2025年12月、国家公務員の兼業規制を緩和すると発表した。2026年4月から個人の趣味や特技を生かした自営業の兼業を可能にする。手芸品の販売やスポーツ・芸術関係の教室の開業などを想定している。

つまり今年の4月から、公務員でも一定条件を満たせば副業が認められるようになった。ただしこの緩和の対象は「趣味や特技を活かした自営業」に限られており風俗業はもちろん対象外だ。許可申請なしの無許可兼業が問題であることは変わらない。

今回の職員は許可申請すること自体が不可能だったにもかかわらず、なぜそのリスクを冒したのか。そこには「推し活」という強力な動機があった。


地下アイドルの推し活にいくらかかるのか

「推し活に金銭が必要だった」という言葉を単なる言い訳として流すのはもったいない。実際に地下アイドルの推し活にどれほどのお金がかかるのかを見ると、この動機には一定のリアリティがある。

推し活をしている人の年間平均支出は約12万円という調査結果がある。推し活費用を捻出する手段として「節約」が最も多く62.7%、次いで「投資」34.5%、「副業・アルバイト」21.6%となっている。

ただしこれはすべてのジャンルの平均値だ。地下アイドルに絞ると話は変わってくる。

地下アイドルの推し活で特徴的なのが「チェキ」の存在だ。推しのアイドルと2ショット写真を撮れる特典で、チェキ1枚あたりの価格は人気度によって異なり、一般的な地下アイドルで1,500円前後が相場となっている。

地下アイドルの場合、収益の半分以上をチェキ撮影に依存していることが多く、中には収入の9割以上がチェキの売り上げで成り立っているグループもある。

ファンにとってチェキは単なる写真ではなく、推しと1対1で会話できる「時間」であり「接触の機会」だ。現場に週複数回通い毎回数枚から数十枚のチェキを撮れば、月に数万円から数十万円の支出になることは珍しくない。

さらに地下アイドルの推し活にはチケット代・グッズ購入・遠征費・プレゼント代が加わる。熱量の高いファンであれば月10万円を超えることも十分ありえる水準だ。

今回の職員が5ヶ月間で稼いだ総額は約230万円、月換算で46万円ほどだ。どれだけ深く推し活にはまっていたかはわからないが、通常の公務員給与では到底まかなえないレベルの支出があったことは想像に難くない。


「推し活のために性風俗」という選択

推し活のために性風俗を選んだという事例は今回が初めてではない。ホスト沼にはまった女性が風俗で働くという構図が社会問題化したのと同様に、推し活の費用を捻出するために性風俗を選ぶケースは以前から存在している。

なぜ性風俗が選ばれやすいのか。理由は単純で、短時間で高収入が得られるからだ。一般的なアルバイトの時給が1,000〜1,500円程度のところ、デリヘルは1時間あたり数千円から1万円以上の収入になることも珍しくない。

もちろん風俗で働くことを選ぶかどうかは完全に個人の判断であり、それ自体を一概に問題視することはできない。今回の問題は「公務員が無許可で行った」という点にある。民間企業の社員であれば就業規則に副業禁止の規定がない限り、性風俗で働くこと自体は違法ではない。

ただ今回の事案が示しているのは、推し活という消費活動が一部の人にとって生活設計を根底から変えるほどの強度を持っているという現実だ。


批判より先に、構造を見る

この事件に対して「公務員がデリヘルで働くとは何事か」という批判は当然出る。処分や依願退職という結果から見れば、社会的な制裁はすでに受けている。

しかしここで立ち止まって考えたいのは、この職員の行動を生んだ構造だ。

推し活市場は拡大を続けている。主要16分野の推し活関連市場は2020年度から2024年度にかけて約50%拡大している。それだけ多くの人が、熱量と金銭を「推し」に注ぎ込んでいる。

地下アイドルの応援は、推しのアイドルを経済的に支える側面が強い。チェキを買うことが直接アイドルの収入になるという構造が、ファンの購買行動に強い動機を与える。「推しの生活を支えている」という実感は消費の歯止めを外しやすい。

この構造の中で収入の壁に突き当たったとき、人はどう動くか。節約か、副業か、あるいは今回のような選択か。

批判は簡単だ。しかし「どうしてそこまでするのか」という問いは、推し活という文化とそれを取り巻く経済の仕組みを理解しなければ答えが出ない。

今回の事件はその問いを、改めて社会に投げかけた。

出典:埼玉新聞(2026年05月28日)

PulseDesk
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