「AV女優は家を借りられない」
今年3月、X上に投稿された「AV女優や夜職をしている人間は、賃貸物件を借りるのが難しい」という内容が話題を呼んだ。投稿に対して「自分も審査に落ち続けた」と同意するAV女優の声が相次いだ一方、「貸主にも借主を選ぶ権利がある」「社会的信用がないから当然」という声も多く上がり、論争となった。
「AV女優は家を借りられない」—これは都市伝説ではなく、実態として存在する問題だ。
なぜ審査に落ちるのか
賃貸物件の入居審査で重視されるのは主に二点だ。「経済力(家賃を支払い続けられるか)」と「人間性(トラブルを起こさない人物か)」。
AV女優や風俗嬢はこの二点の両方で不利になりやすい。収入が不規則で不安定とみなされるうえ、職業への偏見からトラブルを起こしやすい人物と判断されがちだ。人気AV女優で収入が十分あっても関係ない。経済力の問題ではなく、職業に貼られたレッテルそのものが障壁になっている。
「差別か、契約自由か」というグレーゾーン
入居希望者の国籍や人種、障害の有無、宗教などを理由に入居を拒否することは法律違反にあたり、過去の裁判でも損害賠償責任が認められた事例がある。
では職業を理由にした入居拒否はどうか。これは法的にグレーだ。契約自由の原則がある以上、貸主が誰に貸すかを選ぶ権利は認められている。しかも断る際に「職業が理由です」とはっきり伝えてくる貸主はまずいない。当たり障りのない理由を告げられて終わりだ。
「AV女優だから断られた」と確信していても、それを証明する手段がない。職業差別だと感じても周囲に相談しにくく、泣き寝入りになるしかない。
国籍差別は違法で、職業差別はグレー—この非対称さが、性産業従事者を法的に守られない立場に置き続けている。
筆者自身の経験
実はこれは対岸の火事ではない。私自身にも似たような経験がある。
かつて「風俗情報誌を出版していた会社」に勤務していたとき、賃貸物件の入居審査に落ちたことがある。勤務先の業種が影響したのか、あるいは別の理由があったのかは分からない。後になってその会社がいわゆるフロント企業だった可能性を知ったが、審査担当者がその情報を持っていたのかどうかも定かではない。
ただ確かなのは「風俗情報誌の出版社に勤めている」という事実が、入居審査において何らかのマイナスに働いた可能性があるということだ。実際に働いている当事者だけでなく業界に関わる職業全般が、こうした不利益を受けやすい構造がある。
風俗店の事務所・待機所も同じ壁にぶつかる
この問題は個人の住居にとどまらない。風俗店の事務所や待機所を借りる場合も同じ壁にぶつかる。
デリヘルなどの無店舗型性風俗特殊営業は、法律上エリア規制がなく事務所や待機所をどこにでも置けるとされている。しかし実態は大きく異なる。事務所・待機所として使う物件には、貸主の使用承諾書が法的に必要だからだ。
そして現実には、風俗・デリヘル可の物件は極めて少ない。専門の不動産サイトが存在するほど希少な物件カテゴリとして確立しており、一般の不動産屋に飛び込んでもまず見つからない。承諾なしで営業を続けた場合、摘発されるケースもある。
個人のAV女優が住居を借りられないのと風俗店が事務所を借りられないのは、同じ構造の問題だ。「性産業に関わる者には貸したくない」という貸主側の意識が、合法的に営業している事業者の活動を実質的に制約している。
解決策と注意点
こうした状況の中で近年は「水商売専門不動産会社」が複数存在しており、性産業や夜職の人間でも借りられる物件を紹介してくれる。ただし利用には注意が必要だ。なかには違法なアリバイ会社と提携しているような業者も存在するため、しっかり情報を集めて信頼できる会社を選ぶことが前提になる。
また困り果てた末に職業を偽って契約しようとするケースもあるが、これは絶対に避けるべきだ。職業を偽っての契約は詐欺罪に問われる可能性があり、過去にはアリバイ会社が書類を偽造して賃貸契約を結ばせたとして逮捕された事例も実際に起きている。苦境を打開しようとした結果、より深刻な法的リスクを背負うことになりかねない。
見えない壁は賃貸だけではない
AV女優や風俗嬢が直面する「住む場所が借りられない」という問題は、性産業従事者が日常生活で直面する「見えない壁」の象徴的なひとつだ。クレジットカードの審査に通りにくいという話も業界では珍しくなく、夜職・水商売向けの審査攻略記事が多数存在すること自体が、その実態を物語っている。合法的な仕事として認められているにもかかわらず、社会インフラの一部が事実上の門前払いをする構造がある。
「差別か、契約自由か」という問いに対して、法律は今のところ明確な答えを持っていない。しかし合法的に働く人間が住む場所すら自由に選べないという現実は、社会としての課題として受け止める必要があるだろう。
売春防止法の見直し論議が進む中で性産業従事者の権利や生活基盤をどう守るかという議論は、まだほとんど始まっていない。
参考記事 「AV女優は家を借りられない」は本当だった…職業差別による「入居拒否」まかり通る現実(蒼樹リュウスケ) https://www.ben54.jp/news/3542

