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女性向けアダルトグッズはどこへ向かうのか—「Sexual Wellness」という言葉が変えた市場と戦略

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最近の女性向けアダルトグッズにおける変化に、みなさんはお気づきだろうか。

ドラッグストアの棚に並ぶ美容液のような佇まい、北欧雑貨と見紛うミニマルなフォルム、パステルカラーと上質な素材感—10年前のアダルトグッズ売り場を知っている人が今の製品を見たとき、同じカテゴリの商品だとすぐに気づくだろうか。女性向けアダルトグッズの世界で、静かだが確実な革命が進行している。


デザインが変わった—ド紫・ドピンクからパステル・ミニマルへ

かつての女性向けアダルトグッズは、男性向けのそれと同様に「いかにも」なデザインが主流だった。ド紫やドピンクの派手でチープな色使い、露骨な形状、そしてどこかジメジメした印象—購入するには勇気が必要で、持ち歩くのはもってのほかという代物だった。

その文脈を最初に変えたのは、日本では男性向けのTENGAだ。2005年に登場したTENGAは清潔感のある白を基調としたスタイリッシュなパッケージで、「オープンに語れるデザイン」を男性向けアダルトグッズにもたらした。それまでの「マニアックな世界」との決別は、業界全体に影響を与えた。

女性向けでこれに相当する転換点として挙げられるのが、ドイツ発のWomanizerだ。吸引という新しい刺激の仕組みを提供しただけでなく、パッケージや見た目が完全に「ライフスタイル雑貨」の文脈に入ってきた点が大きかった。雑誌やSNSでオープンに紹介されやすいデザインが、これまでアダルトグッズに縁のなかった新規層の取り込みに貢献した。

スウェーデン発のLELOは高級ジュエリーブランドを想起させる外観と丁寧なパッケージングで「プレミアムセクシュアルウェルネス」という新しい市場を切り開いた。アメリカのMaudeはさらにミニマルで、無地の白いパッケージとシンプルなフォルムはインテリアショップの棚に置かれても違和感がないほどだ。

デザインの変化は表面的なことではない。「見た目を変えること」は「誰が買えるかを変えること」だ。


なぜ今、この変化が起きているのか—社会的背景

デザインの変化は社会の変化と切り離せない。

フェミニズムの広がりとともに、「女性の性的自律」という概念が語られるようになった。自分の体と快楽を自分でコントロールする権利—それはかつてタブー視されていたが、SNSの普及とともに女性同士が性の話題をオープンにシェアする文化が醸成され、「女性がアダルトグッズを持つこと」の心理的ハードルが急速に下がった。

もう一つの背景として、日本においては特に顕著な「一人で楽しむ」文化の定着がある。セックスレスの増加、婚姻率の低下、晩婚化—パートナーがいない、あるいはいても性的に満たされない状況で、自分自身の快楽を自分で追求することへの肯定感が高まっている。

さらに言えばコロナ禍が一つの転換点になった面もある。外出制限と孤独の中でセルフケアへの関心が爆発的に高まった時期に、「自分の体をケアすること」の延長線上にアダルトグッズが位置づけられるようになった。


言葉が変わった—「アダルトグッズ」から「Sexual Wellness」へ

デザインの変化と並行して、業界を取り巻く言語が根本的に変わった。

「マスターベーション」は「セルフプレジャー」に。「アダルトグッズ」は「Sexual Wellness製品」に。「性的快楽のための道具」は「セクシュアルヘルスケアアイテム」に—これらは単なる言い換えではなく、カテゴリそのものの移動を意味している。

この言語の転換が最も戦略的に実践されているのが、各ブランドのマーケティングだ。LELOは「Sexual Wellness industry」という言葉を積極的に使い、医学的知見や神経科学の研究を引用しながら「快楽と健康の接続」を訴求している。単に気持ちいい商品ではなく、科学的に裏付けられたウェルネスツールという文脈に商品を置くことで、まったく異なる客層と販路が開ける。

LELOのマーケティング責任者はL’OrealやHenkelといった美容・日用品大手出身で、「アダルト業界は広告規制が厳しい業界だが、美容・FMCGでの経験がその課題に対応するための準備になっている」と語っている。アダルト業界が美容業界のマーケターを採用するという動きは、カテゴリ移動の本気度を示している。


各ブランドの戦略—それぞれの「出口」の作り方

LELO(スウェーデン)

高級路線の先駆者。ジュエリーのような外観と上質な素材感で「プレミアムセクシュアルウェルネス」という市場を作った。2024年にはアプリ連携型の男性向けプロステートマッサージャーを発表するなど、テクノロジーとの統合も積極的に進めている。価格帯は意図的に高く設定されており、「安くて恥ずかしいもの」ではなく「投資する価値のあるウェルネスアイテム」というポジショニングを貫いている。

Womanizer(ドイツ)

吸引技術(プレジャーエア技術)という機能的な差別化と、ライフスタイルブランドとしてのデザインを組み合わせた。女性誌やライフスタイルメディアで取り上げられやすい外観が、従来のアダルトグッズとは異なる文脈での露出を生んだ。「吸うやつ」という口コミでの広がりは、デザインと機能が両立した結果だ。

Dame Products(アメリカ)

セクソロジスト(性科学者)とエンジニアの女性2人が2014年に設立。「プレジャーギャップ(性別間の性的満足度の格差)を埋める」というミッションを掲げ、フェミニズムと製品開発を直結させた。ニューヨーク市の地下鉄広告でアダルト系広告として掲載を拒否されたことに異議を申し立てるという「PR戦略としての法的闘争」で大きな話題を呼んだ。そしてついにTargetの300店舗での販売を実現した。一般小売への進出という点で最も先進的な事例だ。

Maude(アメリカ)

ミニマルなデザインとインクルーシブなメッセージで1,000万ドル以上を調達。「インティマシーをメインストリームにする」というブランドコンセプトのもと、性別・年齢・指向を問わない普遍的な訴求を行っている。パッケージの美しさはギフトとしての需要も生み出しており、「誰かに贈れるアダルトグッズ」という新しい文化を作りつつある。


TENGAとirohaの変遷—日本における最前線

日本でこの流れを最もダイナミックに体現しているのが、TENGAとその女性向けブランドirohaだ。

TENGAが2005年に登場したとき、男性向けアダルトグッズのイメージを根本から変えたことは前述の通りだ。そのTENGAが2013年に立ち上げたirohaは、当初から「女性らしくを、新しく。」というコンセプトを掲げ、従来の女性向けアダルトグッズとは一線を画すデザインと訴求で展開を始めた。

irohaが行った最も重要な言語的転換は「セルフプレジャー」という言葉を日本市場に定着させたことだ。「セルフプレジャー」自体は英語の「self-pleasure」からの借用語で、iroha以前から存在していた言葉だが、irohaは2013年のブランド立ち上げ時からこの言葉を意図的に選び、「マスターベーション=自慰(自分を慰める行為)」というネガティブな含意を排除して「悦びを見つけるための行為」として再定義することを明確に打ち出した。単なる言葉遊びではなく、商品が置かれる文脈を根本から変えた戦略的な選択だった。

転換点となったのが2018年8月の大丸梅田店でのポップアップストアだ。日本の百貨店でプレジャーアイテムが販売されるのは初めてのことだったが、20代から70代までの幅広い年代の女性やカップル約1,500名が来店し、目標金額の3倍を超える売上を記録した。この結果は業界と社会に大きなインパクトを与え、新聞や朝の情報番組でも取り上げられた。

2023年の10周年を機に、irohaはブランドステートメントをさらに刷新。プレジャーアイテムにとどまらず、生理・妊娠出産・更年期障害など女性のライフステージ全体をサポートする「フェムケアブランド」としての再定義を行った。アンバサダーには水原希子を起用し、ブランドイメージを一気に一般化させた。

irohaを知っているユーザーの4人に1人が「SNSをきっかけに知った」と回答しており、デジタルを通じた認知拡大が着実に進んでいる。


カテゴリ移動の実利—なぜ企業は「ウェルネス」を名乗りたいのか

ブランドがこぞって「アダルト」から「Sexual Wellness」へのカテゴリ移動を図る背景には、明確なビジネス上の理由がある。

まず決済問題だ。本特集でも繰り返し触れてきたように、StripeをはじめとするPayment processorはアダルトコンテンツ・アダルト商品に対して厳格な姿勢をとっている。「ウェルネス製品」として認定されることは、決済の安定に直結する。

次に広告出稿の問題だ。Meta・Google・TikTokはアダルト系広告を厳しく制限している。「フェムケア」「セクシュアルウェルネス」というフレーミングは、広告審査を通過しやすくなるという実利がある。

流通の問題もある。一般小売店やECモールへの出品可否は、カテゴリ判断に大きく左右される。Dame ProductsがTargetに並んだのも、「アダルトグッズ」としてではなく「ウェルネス製品」として認められたからだ。

そしてブランディングの問題。「いやらしさ」を排除したデザインと言語は、これまでアダルトグッズに縁のなかった層—性的ウェルネスに関心はあるが「アダルトショップには行きたくない」という多数派—への扉を開く。


この変化は何を意味するのか

「アダルトをやめた」のではない。「アダルトを隠さなくてよい文脈を作った」のだ。

Sexual Wellnessという言葉は、性的快楽を健康・ウェルネスという社会的に受け入れられた概念に接続することで、商品が存在できる空間を広げた。アダルトショップでも買えて、ライフスタイル雑誌でも取り上げられる—そのどちらも「本当のこと」であり、矛盾ではない。

以前の記事「エロはなぜ虐げられるのか」で書いたように、性に関わるものが社会から押し返されるのは、それが「見えすぎる」ときだ。Sexual Wellnessというフレーミングは、見え方をコントロールする技術でもある。日陰を歩きながら、日向の文脈を借りる—それが今、最も賢いやり方なのかもしれない。

PulseDesk
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Pulse Adult編集部。確認できた情報をもとに、アダルト産業のニュース・規制・カルチャーを取り上げています。
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